この月は、毎月続けて伺っている現場を中心とした活動でした。下関市と北九州市の医療機関での透析患者さまへの運動指導、下関市スポーツ振興課との「下関海峡マラソン挑戦プロジェクト!」でのスロージョギング定例走行会、久留米市での在宅パーソナル指導です。いずれも単発の催しではなく、月をまたいで同じ方々と続けている取り組みですので、ここではその内容と、現場で何を見ているのかを書き残しておきます。
【下関市】
○透析病棟での個別運動指導 (前田内科病院)
〇透析病棟での集団運動実施調査(きし腎泌尿器科)
○下関海峡マラソン挑戦プロジェクト!「スロージョギング定例走行会」(下関市スポーツ振興課)
【北九州市】
○透析前の個別運動指導(門司クリニック)
【久留米市】
○在宅パーソナル(櫛原地区)
透析病棟での個別運動指導(前田内科病院・下関市)
透析治療を受けている方は、週に三回、一回あたり四時間前後をベッドの上で過ごされます。治療そのものに時間を取られることに加え、終わったあとの疲労感から動くことを控えがちになり、結果として筋肉量と歩く力が落ちていきやすい状況に置かれます。脚の筋肉が落ちると、立ち上がる・階段を上がるといった日常の動作が重くなり、外に出る回数が減ります。外に出る回数が減れば、また動く機会が減ります。この連鎖を、どこかで止めておきたいというのが運動指導の目的です。
病棟での個別指導では、ベッドの上または脇でできる範囲の運動を、お一人ずつの状態に合わせて行います。内容を決める前に、その日の血圧、前回からの体重の変化、ご本人が感じている疲れの程度、シャント側の腕の具合を確認します。確認のうえで、脚を伸ばす・膝を曲げ伸ばしする・足首を動かすといった動きから始め、負荷をかけられる方には下肢を中心とした筋力の運動まで進めます。息を止めて力むやり方は血圧を上げてしまいますので、数を声に出して数えながら、呼吸を止めない形で行っていただきます。
同じ病棟に伺い続けている利点は、前回との比較ができることです。前回より足首が回るようになった、椅子から立ち上がるときに手をつかなくなった、といった小さな変化は、その場に居合わせなければ拾えません。拾ったことはご本人にお伝えし、看護師の方にも共有します。体調が良くない日は運動を行わない判断も含めて、医療機関の管理のもとで進めています。
透析病棟での集団運動実施調査(きし腎泌尿器科・下関市)
きし腎泌尿器科では、個別ではなく複数の方に同時に運動を行っていただく形をとり、あわせてその実施状況の調査を行っています。集団で行う形には、個別指導とは違う働きがあります。隣の方が続けているから自分も続く、という場の力です。一人では三回で止めてしまう動きが、周りに合わせて十回まで続くことは珍しくありません。反面、全員に同じ負荷をかけることはできませんので、一つの動きについて強さの段階をいくつか用意し、その日の状態に合った段階を選んでいただく形にしています。
調査では、どの運動がどの程度実施されたか、途中で止められた方がどこで止められたか、回を重ねて実施率が上がるのかを記録しています。運動指導は、やっていただいた内容が残らなければ次につながりません。記録をとることで、続けやすい動きと続きにくい動きが分かれてきます。続きにくい動きは、やり方を変えるか、別の動きに置き換えるかを検討します。
スロージョギング定例走行会(下関市スポーツ振興課)
下関市スポーツ振興課の「下関海峡マラソン挑戦プロジェクト!」の中で、定例の走行会を担当しています。スロージョギングは、隣の人と話せる程度の速さで走る方法です。歩くのと変わらない速さであっても、走る動きには両足が地面から離れる瞬間がありますから、歩くより運動量が得られます。速さを競わないため、長く走ることから離れていた方、ひざや腰に不安のある方にも入口になります。
走行会では、まず足の着き方を一人ずつ確認します。かかとから強く着くと、その衝撃が膝と腰に上がってきます。足の前のほうから静かに着き、歩幅を小さく、回転を速めにとる形に整えると、同じ速さでも体への当たりが変わります。次に呼吸です。話せる速さを自分で決められるよう、隣の方と短い言葉を交わしながら走っていただき、言葉が切れてきたら速さを落とす、という目安をその場で身につけていただきます。
定例という形にしているのは、運動の効果が一度で出るものではないからです。月に一度でも予定として入っていれば、その間に自分で走る理由になります。走行会でお会いしたときに、間に走られたかどうかを伺い、走られた方にはそのまま続け方を、走れなかった方には走らずにできる準備の仕方をお伝えしています。
透析前の個別運動指導(門司クリニック・北九州市)
門司クリニックでは、透析が始まる前の時間に個別の運動指導を行っています。透析後は疲労が残りますので、動いていただくなら前の時間のほうが向いています。来院されてから治療の準備が整うまでの待ち時間をそのまま使える点も、通われている方の負担になりません。
内容は下関市の病棟と同じ考え方で組み立てますが、治療前という条件に合わせ、血圧が大きく動く動きは避けます。椅子に座ったままの下肢の運動、立って行う場合は手すりか背もたれに手を添えた形を基本とし、終わったあとに息が上がって治療に差し支えることのない範囲に収めます。クリニックのスタッフの方と、その日に運動を行った方・行わなかった方を共有しておくことも、毎回の手順に入れています。
在宅パーソナル(久留米市・櫛原地区)
通うことが難しい方のお宅へ伺う形の運動指導です。施設の運動室と違い、お宅の条件はそれぞれ異なります。玄関の段差の高さ、廊下の幅、使っておられる椅子やベッドの高さ、手すりが付いている場所と付いていない場所。これらは変えられない条件ですから、その条件の中でできる動きを組み立てます。
たとえば、椅子からの立ち上がりを運動にする場合、その方がいつも使っている椅子の高さで行うことに意味があります。運動室の台で十回できても、自宅の低い椅子で立てなければ生活は変わりません。逆に、自宅の椅子が高すぎて負荷にならないなら、座面の手前に浅く腰かけていただく形に変えます。手すりのない廊下で歩く練習をするなら、壁に手が届く側を通る順路にします。
ご家族が在宅のときは、できるだけ見ていただくようにしています。週に一度伺っても、残りの六日はご本人とご家族の時間です。見ていただいて、声のかけ方と危ない形の見分け方をお伝えしておくと、その六日が変わります。お渡しする内容は、紙に書いて残す分も含め、ご家族が声に出して言える長さに収めることを心がけています。
暑い時期の運動について
8月は一年でいちばん暑さの厳しい月です。屋外で行う走行会はもちろん、室内の運動でも、気温と湿度が高い日は熱中症への注意が欠かせません。環境省は、気温・湿度・日差しの強さなどから算出する「暑さ指数(WBGT)」を毎日公表しています。運動の予定がある日は、この指数を確かめ、高い日は時間を朝夕の涼しい時間帯にずらす、運動の量を減らす、休憩をこまめに入れるといった調整をしてください。
水分のとり方は、人によって正解が違います。一般には、のどが渇く前に少しずつ飲むことが勧められますが、透析を受けている方や心臓の病気のある方は、医師から一日の水分量を決められていることがあります。その場合は、ご指示の範囲を守ったうえで、暑い時間の運動を避けることで対応します。また、尿の量を増やすお薬(利尿薬)を飲んでいる方は、汗とあわせて体の水分が失われやすくなります。ご自分のお薬が気になる方は、お薬手帳を持って薬局でお尋ねください。
運動中や運動のあとに、めまいや立ちくらみ、足がつる、汗が止まらない、頭が痛い、吐き気がするといった様子が見られたら、熱中症を疑ってください。すぐに運動をやめ、涼しい場所に移って衣服をゆるめ、首すじやわきの下を冷やします。呼びかけへの返事がおかしい、自分で水分をとれないといった場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
透析を受けている方の運動について
かつては、透析を受けている方には安静が勧められることが多くありました。現在では考え方が変わり、2018年に日本腎臓リハビリテーション学会が「腎臓リハビリテーションガイドライン」をまとめるなど、体調に合わせた運動を続けることで、歩く力や日常生活の動作を保つことが重視されるようになっています。とはいえ、透析を受けている方の体の状態は日によって大きく変わります。運動はかならず主治医の了解のもとで、その日の状態を確かめながら行うことが前提です。
ご自宅で運動を続けるために
指導を受ける日よりも、受けない日のほうがずっと多いものです。続けるための工夫として、次のようなことをおすすめしています。運動する時間を、食事のあとやいつも見ているテレビ番組の前など、毎日の決まった出来事に結びつけること。カレンダーに、行った日に印をつけること。一度にたくさん行うより、少ない回数でも毎日続けること。痛みが出たときは無理に続けず、次にお会いするときにお知らせいただくこと。これらは特別な道具がなくても、今日から始められます。
椅子を使ってできる運動の例
病棟でも、クリニックの待ち時間でも、ご自宅でも行いやすいのが、椅子を使った運動です。ここでは代表的なものを四つご紹介します。いずれも、痛みのない範囲で、呼吸を止めずに、数を声に出して数えながら行ってください。
1)膝の曲げ伸ばし
椅子に深く腰かけ、片方の膝をゆっくり伸ばして、つま先を天井に向けたまま5つ数えます。ゆっくり下ろして、反対の脚も同じように行います。太ももの前の筋肉が働いていることを、手を当てて確かめながら行うと効果的です。
2)かかと上げ
椅子の背もたれに手を添えて立ち、かかとをゆっくり上げて、ゆっくり下ろします。ふくらはぎの筋肉は、歩くときに体を前に押し出す役割を持っています。座ったまま行う形にすれば、立つことに不安のある方にもできます。
3)椅子からの立ち上がり
浅めに腰かけ、足を少し手前に引き、おじぎをするように体を前に倒してから立ち上がります。座るときも、勢いよく腰を落とさず、ゆっくりと。手を使わずに立てる方は胸の前で腕を組み、難しい方は膝や座面に手をついて構いません。
4)座ったままの足踏み
背筋を伸ばして座り、左右の膝を交互に持ち上げます。腕も一緒に振ると、全身の運動になります。最初は30秒から始め、慣れてきたら時間を延ばしてください。
回数の目安は、それぞれ10回を1セットとし、余裕があれば休憩をはさんで2〜3セットです。物足りなく感じるようになったら、回数を増やすよりも、一つひとつの動きをゆっくり行う時間を長くするほうが、関節に負担をかけずに筋肉への負荷を上げられます。ただし、その日の体調がすぐれないとき、運動中に胸の痛みや強い息切れ、めまいを感じたときは、すぐに中止してください。
集団で行うか、一人ずつ行うか
この月の記録には、集団で行うもの(集団運動実施調査、走行会)と、お一人ずつ行うもの(病棟と透析前の個別指導、在宅パーソナル)の両方が並んでいます。どちらが優れているということではなく、目的によって向き不向きがあります。集団の形は、仲間と一緒に続ける楽しさがあり、公民館やデイサービス、職場など、同じ目的を持つ方がまとまっている場に向いています。個別の形は、関節の痛みや持病、体重の管理など、その方だけの事情に細かく合わせる必要があるときに向いています。どちらの形がよいか迷われる場合も、まずはご相談ください。
当事業部の提供サービスと料金は健康運動事業のページに掲載しています。集団運動指導プラン、個別運動プランのいずれについても、内容や時間の相談を承ります。対応地域は杉山薬局各店舗の近郊で、市外の場合は交通費を別途いただくことがございます。医師から運動を止められている方へのご案内は控えております。ご相談は杉山薬局各店舗、またはお問合せのページよりお願いいたします。